記者の眼記者の眼

第106回 (2020年11月11日)

 トニー賞を受賞したミュージカル「Hamilton」。これは、米国建国の父の一人である、アレクサンダー・ハミルトンの一生を描いた作品だ。この時代を生き抜く、建国の父たちのやり取りや、類まれなる文才の描写。生涯のライバルとの友情と決裂。そして妻との出会いと別れ。これらの内容をヒップホップ音楽で表現するため、テンポよくストーリーが展開される。

 

 もう一つ、この作品で注目すべき点は「書く」ことだ。ハミルトンは、合衆国憲法を批准するために書かれた連絡論文「The Federalist Papers」のほとんどを執筆したことで知られる。同時に家族や友人にも多くの手紙を残していたようだ。彼の論文や手紙を受け取った人々が、伝記として残し、彼の功績を語り継いできた。

 

 文字で書いた内容を伝え、価値あるものとして残すという、人間にしかできないことがあるからこそ、我々の文明は発展してきた。そして、書き留めた内容から学び、応用した知識の蓄積が、次世代への指針として生き続ける。改めて、自分が人間文明の礎に立っていることを痛感する。

 

 「書く」ことを生業とする今、自身の興味関心だけを発信できれば楽だろう。しかし、読者に価値ある文章として認められることも重要だ。このバランスは難しいが、自分だからできる文章を世に発信し、誰かに役立てば本望とも考える。どんな分野でも、過去の学びを未来に受け渡すための文章を書き続け、腕を磨いていきたい。そこに自分の生きる意味を見出せれば幸せだ。

  

(山岡)

 

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