記者の眼記者の眼

第105回 (2020年10月28日)

 おばあちゃんの声が聞こえる。「焼き芋、できたよ。こっちにおいで」。夢中になっていたゲームを切り上げ、1つ年上の兄と、声のする方にそそくさと向かう。石油ストーブのうえでこんがりと焼きあがったほくほくのサツマイモ。私たち兄弟の顔にぱっと笑みがこぼれる。

 

 40年以上前の思い出はいまも色褪せない。しかし、家族で石油ストーブを囲み、そこでじっくりと焼き上げたサツマイモを堪能する生活は、もうここにはない。暖房器具はファンヒーターやエアコンに置き換わり、慌ただしい生活は、しみじみと焼き芋を味わう暇を与えてはくれない。

 

 暖房にまつわる自分の思い出はさておき、いま気になるのは、今冬の灯油や電力の動向。北日本を除く地域では、平年より気温が低めに推移する可能性が高いようだ。一方、冬場の寒さを見越して国内の灯油在庫は厚い。需要期に灯油が極端な品薄になる恐れはいまのところはなさそうだ。また、原油安に伴い発電用の化石燃料価格が比較的安価なことから、大幅な電力料金の上昇もなんとか抑えられるだろう。それでも油断は禁物。マーケットは生き物だ。刻々と移り行く灯油や電力の市況に目を光らせたい。

 

 最後にもう一度、思い出話。焼きたてのサツマイモを取り分けてくれた祖母が天国に旅立ってからもう5年が経つ。冬の到来はいつも、あの石油ストーブを取り囲んだ光景を思い出させてくれる。そして聞こえそうな気がする。「焼き芋、できたよ」。

  

(二川)

 

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