新春特集=2021年のLPG相場、「なぜこんな値動きをするのか」
価格高騰の背景
2021年のLPG相場は、例年の流れに逆行するような価格の動きを見せた。特に、給湯用需要が低くなる6~7月に価格が上がり始めた際には、多くの市場関係者から「なぜこんな値動きをするのか」と、疑問の声が多く寄せられた。これは複数の要因が絡み合った結果だったと言っていい。
まずは原油相場の上昇だ。下のグラフ(図1)を見ても分かるとおり、青色のWTI原油が21年の4~7月にかけて堅調に推移していたことが見て取れる。これにつられるように、オレンジ色のプロパン相場も右肩上がりを描いた。しかし、WTI原油が反落した8月においても、プロパンの相場はまだ上昇を続けている。これにはどんな背景があったのか。
図1:プロパンとWTI原油の価格推移 2020年1月~2021年11月
リム調べ
パナマ運河の滞船と供給懸念
8月前半のLPG相場に大きく影響したのは、パナマ運河の滞船だ。2020年の年末から2021年初めにかけ、パナマ運河に船が殺到したことでLNGやLPGを積んだ船の到着が遅れ、エネルギー価格の高騰と電力不足を引き起こしたことは記憶に新しい。実はこの8月にも、パナマ運河の混雑で9月に日本へ到着するLPGの供給懸念が生じていたのである。これが相場の上昇要因となった。
さらに、8月後半には日本の元売りによるスポット購入が相次いだ。元売り勢は20年末の在庫不足を繰り返さないよう、冬の需要期が来る前に在庫の積み上げを図ったのだ。このとき日本勢が購入したカーゴは、やがて9月後半から10月にかけて日本へ到着する。輸入統計(表1)や在庫統計(図2)はこの動きを如実に物語っていた。2020年10月のLPG通関量は約75万8,000トンと前年比10.1%の増加。そして在庫統計のグラフを見れば、8月から10月にかけて日本全体の在庫が徐々に積み上がっていったことが分かるだろう。
2020 |
2021 |
増減率 |
|
10月 |
687,965トン |
757,532トン |
10.1% |
表1:日本のLPG通関量 2020年10月対2021年11月 出典:財務省
図2:日本のLPG在庫統計 2020年10月~2021年10月
出所:日本LPガス協会
このように、パナマ運河の滞船による供給の引き締まりと、在庫積み上げを目的とした需要の増加が、不需要期であるはずの夏場にLPG相場を押し上げた要因となっていたのだ。
なお、日本国内では7月末から東京オリンピックが開催された。タクシー用のオートガス特需が期待されていたが、目立った影響はなかったようだ。
さて、2021年の価格高騰を語る上でもう一つ欠かせない事象が、米プロパン在庫の低さだ。図3のグラフでは、青色の折れ線が最新週の在庫水準を表している。一方、グレーの帯は過去5年の同時期における在庫水準を示している。2021年に入ってから、青色の折れ線は常にグレーの帯域の下方を推移し、9月から10月にかけて5年平均を下回る水準にまで落ち込んだ。輸出量の伸びに生産が追い付かなかったと伝えられているが、この時期、ついには米国の大手輸出業者がスポット市場でLPGを大量に買い戻すという事態にまで発展している。
図3:米プロパン在庫 2020年1月~2021年12月
出所:米EIA
このプロパン在庫の低さがLPG相場にもたらしたもの、それは言わずもがな、米モントベルビュー市況の上昇である。米モントベルビュー市況は米国内でのLPG需給に影響される部分が大きく、プロパン在庫の低さは市況の上昇に直結した(図4)。いまや米モントベルビュー市況はアラムコCPと並ぶ、LPG国際取引における指標価格となっている。そのため、この米モントベルビュー市況の上昇が極東着のスポット相場や、アラムコCPも引き上げる格好となった。
図4:米モントベルビュー市況 2021年1~10月
リム調べ