EEX日本=日本の電力市場参入で丸1年、コロナ禍でも取引量伸ばす
欧州エネルギー取引所(EEX)は、昨年5月18日に日本の電力市場に参入し、丸1年が経過した。新型コロナの感染拡大で厳しい船出を強いられたが、昨年後半から順調に取引量を伸ばし、電力需給が逼迫した今年1月には、1カ月の取引量が11億6,034万kWhに達した。足元でも、夏場や冬場のヘッジニーズは強く、順調に取引量を伸ばしている。 昨年7月に、EEX日本の上席アドバイザーに就任した高井裕之氏に、この1年を振り返ってもらうとともに、今後の取り組みなどについても聞いた
最悪な状況でのスタート 昨年5月は、新型コロナの感染拡大により、日本でも緊急事態宣言が初めて発令された時期となった。5月の電力需要は、過去15年の中でも月間で初めて600億kWhを割り込むなど、最悪な状況下での取引開始となったが、高井氏によると「取引開始の延期などは考えていなかった」という。高井氏は、昨年7月からEEXでのキャリアをスタートさせているため、取引開始時点ではEEXにかかわっていなかったが、「自身をEEXに招いたCOOのステファン・クーラーによると、1月に200名もの関係者を招いたセミナーの場で、5月にスタートさせると約束していたことから、予定どおりにスタートさせた。ドイツ人らしい有言実行の精神だと思う」とした。ただ、5月の取引件数はわずか2件に留まり、文字通り厳しい船出となった。
昨年7月の取引は1件のみ 高井氏がEEXに加わった昨年7月の取引は、5月をさらに下回る1件のみとなった。コモディティー業界で名を馳せた高井氏も「この時は本当に焦った。何とかしないといけないという思いが一段と強まった」という。高井氏は、海外にいる同僚にも助けられながら、これまでの人脈を頼りつつ、まず人に会うことを優先させたというが、コロナ過という厳しい状況の中でそれもままならかったようだ。「それでも振り返ると、7月以降にいただいた名刺は今日までで200枚以上になった。オンラインミーティングも含めると、300人くらいには会ったと思う」と述べている。さらに、高井氏はメディアにも積極的にアプローチし、宣伝活動にも力を入れた。こうした地道な取り組みが徐々に奏功し、取引も増えていくことになる。
昨年10月に取引増加 それまで低空飛行だった取引は、昨年10月に前月の倍以上となる1億1,149万2,000kWhに急増した。6月にも一度1億kWhに達したが、それを上回る取引量となった。高井氏によると、この時期からLNG価格に上昇の傾向が見られ、電力市場への影響を危惧する声も一部あったという。こうした兆候に電力市場でもヘッジの動きが進んだと見られ、高井氏とセールス部隊の地道な活動も後押しする格好で取引量が増える動きとなった。
1月の取引量、5月~12月合計の倍に 記憶に新しい今年1月の記録的な電力スポット市場の高騰時には、ヘッジの動きが一段と加速し、冒頭でも触れたが、1月の取引量は11億kWhを超えた。これは、昨年5月から12月の合計取引量のおよそ2倍に達した。また、昨年5月から今年4月までの年間の取引量は、合計で33億5,066万4,000kWhとなり、取引件数も400件に迫った。高井氏は「昨年5月にわずか2件だった取引がここまで増えたことは感慨深い」と述べており、足元でも順調に取引が増えている。
日本の顧客ニーズに注力 現在、EEX日本では18社が取引を行っているが、海外のエネルギー企業と一部の日系企業が中心となっている。EEXは、海外のエネルギー取引などで20年の実績をもち、電力取引量は4年連続で世界一となるなど海外のエネルギー企業にはその名を広く知られている。こうした知名度が海外企業の参加につながっているが、高井氏によると、「日本の新電力などは、EEXに対して、『敷居が高い』『英語に抵抗感がある』『取引ロットが大きすぎる』ことなどがネックとなり、参加が思うように進んでいない」という。ただ、今年1月の市場価格の高騰時に、ヘッジの動きが急速に進んだことで注目する日本企業は増えており、興味を示す大手電力なども増えているようだ。さらに高井氏は「デリバティブの仕組みをより分かりやすくした動画作成や、日本語での丁寧な説明・対応など、EEXをより身近に感じてもらえる取り組みを現在検討している」という。「EEXは、業界に携わるすべての企業と一緒に市場を作っていくという『Building Markets Together』を実践すべく、顧客ニーズにしっかり対応していきたい」とし、今後もさらなる顧客層の拡大に力を入れていくとしている。 |