新春特集=国内ガソリン相場、2021年は議論の年
スポット相場にも大きな動きがあった。昨年8月、2021年3月末までに商社向けのJONET貸与契約が打ち切られるとの情報が市場に流れた。12月までに丸紅など大手商社向けタンク貸与契約が終了しており、今年3月には丸紅エネルギーや伊藤忠エネクスも貸与契約を終了する見通しだ。商社へのタンク貸与が終了後は大株主の出光興産が専用油槽所として使用する見込み。
また、10月にはタンクローリーによる石油製品輸送を展開する上野輸送が陸上スポット配送を縮小すると市場に流れた。上野輸送の親会社である上野興産はJONET株式20%を保有する。出光と合わせ、JONET株を取得している両社がこのような動きを示したことで、市場関係者の多くがスポット相場の縮小が一段と強まると警戒した。実際、卸業者からもJONET出荷に制限がかけられるとの声が数多く寄せられるようになった。ある市場関係者は「量を売る時代が終わった、需要と供給のバランスを保ちながらやろうという流れになっている」(広域ディーラー)と2020年の変化を述べた。「安く仕入れて安く売る」ことから、商売の基本である「安く仕入れて高く売る」ことを改めて問われた年でもあったようだ。
当然ながらスポット商談縮小の動きは小売業、特にPB業者にも影響を与えた。「JONETの利用ができなくなり、これまで安く買って安く売っていたPBは商売が成り立たなくなる」と、ある市場関係者は指摘する。水面下では元売りや商社からPB業者に対し、系列化を促す打診があるとの情報も広く寄せられた。2020年は卸業者も小売業者も同業の動きに敏感な年でもあった。この動きは2021年も続くだろう。
もっとも、「仮にPBがなくなり、元売りマークのSSばかりになったら店頭価格の競争が消え、消費者の負担が増す」との声も聞く。元売り再編で交差点の四隅に同じマークのSSが立ち並ぶなどの冗談が笑えない話になりつつある。特に都市部ではここ数年で同じブランドSSの密集度が格段に増している。
一方、新しい動きもある。新型コロナウイルスの収束のめどが未だに立っていない中、旅行需要は未だに限定的だ。JTBが発表した2020年の年末年始の旅行動向によると、旅行に行くと答えた人は全回答者のうち14.8%にとどまった。ただし注目は、旅行に行くと答えた人の中で移動手段に乗用車を上げる人が全体の56.3%に達したことだ。新型コロナ感染防止対策として飛行機や電車、バスから自家用車、あるいはレンタカーへの注目が集まっていると言えよう。旅行先としては全国的に居住地域内、ないしは近隣の旅行を選ぶ傾向が顕著となっている。
近畿日本ツーリストも年末年始の国内宿泊先おすすめランキングを発表したが、群馬県、栃木県、神奈川県、静岡県など首都圏から車で行ける温泉地がランキングを独占した。このように、旅行需要は限定的ではあるものの、コロナ禍では「三密」を避けようと車でアクセス可能な温泉地、自然・景勝地、あるいは近くの商業施設が注目を集めていることが明確になった。2021年も新型コロナウイルスの感染が収束しない限り、この流れは続くだろう。通勤でも感染防止の観点から電車通勤を車通勤に変えたとの声も聞く。足元の自粛ムードや将来の脱ガソリン車など、ガソリンは向かい風と思われがちだが、ガソリン車やディーゼル車の利便性がすぐに取って代わられることはない。12月下旬の寒波で日本海側は大雪に見舞われ、関越道では雪による車の立ち往生が報道されたのは記憶に新しい。EVカーや水素燃料カーだったら一体どうなっていたのか、華やかな未来だけを語るのは消費者の不安を煽りかねない。
環境省は令和3年度も揮発油税等の「当分の間税率」はグリーン化の観点から維持すると発表した。また、政府が発表した2021年度税制改正大綱ではエコカー減税について、基準はより厳しくなるものの、2年間延長されることが発表された。ただ、「わが国経済がコロナ禍にあることを踏まえれば、急激な変化は望ましくない」として、車体課税の抜本的な変革は見送られた。一方で12月、政府が2030年代半ばまでにガソリンエンジン車の販売を禁止すると伝えられた。対象となるのはガソリンエンジンのみで、ハイブリッドエンジン車は対象外である。このため、ガソリンの需要がゼロとなることはないが、漸減する需要に危機感を覚える業者も多い。
こうした動きに対し、トヨタ自動車の豊田章男社長はハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などの電動車に切り替える経産省の計画に異を唱えた。政府や自治体が打ち出す脱ガソリン、脱炭素化は聞こえがいいものの、具体的な計画に乏しく、社会構造の変化も必至だ。こうした疑問点を解消するため、2021年は本格的な議論の年となるだろう。