新春特集=バンカー相場、アジアの動きを読む
シンガポールは月間約400万トンの需要と供給を持つアジア最大港で、2021年以降もその影響力は維持される公算が大きい。2020年も船会社の多くは利便性や供給能力が高 い港として利用した。同港は2021年以降、LNGハブ港としても力を入れていく方針だ。シンガポール海事港湾庁(MPA)は昨年12月15日まで新規のLNGバンカーサプライヤーとして申込んだ業者に経営上の問題が無く、LNG供給のインフラが整っていると判断できれば今年2月以降、MPA公認のサプライヤーとして承認していく方針を明らかにした。
一方、昨年4月にシンガポール最大の石油取引会社ヒンリョンの経営破綻を映し、銀行の監査が厳しさを増している。供給会社も銀行から融資を受けられるよう、各社と価格競争はしながらも大幅な値下げまでには当分できないようだ。
香港 はどうだろうか。香港は昨年7月29日から荷役を伴わない船員の新規交代が禁止された。原則的に船員には14日間の隔離措置が取られている。バンカー燃料油を供給する船員も隔離対象で、事実上香港でのタッチバンカーができなくなった。規制当初は、隔離が終了する8月11日に規制が解除される予定だったが、中国政府の圧政で規制解除の見込みがない。この結果、船会社の多くは香港を避け、寄港地および代替港で補油する動きがみられる。昨年末もこの状況に変わりはなく、もはや世界のバンカー港としての存在感は失せている。現在はコンテナ寄港船の長期契約のみバンカーを販売。あるいは14日間の沖合待機を容認する船舶のみスポットでバンカーを販売している。
香港は自国で製油所を持たず、シンガポール経由でバンカー油を輸入するため、輸送コストが販売コストに上乗せされる。この結果、シンガポールでの販売価格が高くなれば自ずと香港での販売価格も上がり、価格競争力を失う。LNGバンカーや再生可能エネルギーという議論より国際バンカー港として返り咲くことができるのかが大きな課題となる都市となりそうだ。
中国の存在感が増している。内航バンカー月間100万トン、ボンドバンカー月間100万トンのマーケットへ成長した中国は、国策として北東の舟山市(ゾーシャン:Zhoushan)をアジア最大港にしようと港湾インフラを整えている。
中国のバンカーは、海外から輸入した製品を舟山に集め、北部天津、上海、南部の厦門、長江中流の武漢へ輸送するため、ボンドバンカーの価格は舟山がベースとなる。香港でタッチバンカーができなくなった今、中国はその需要を取り込むべく厦門の港湾環境も整えている。最も近い国際ポートの台湾は、供給キャパシティーが小さいため、自ずと舟山港と厦門港の需要が高まる(地図参照)。
中国はシンガポールからバンカーポートの影響力を奪うべくLNGバンカーへの設備投資だけでなく、販売価格もシンガポール並みに対応し、対外的にアピールしている。ただし、東シナ海の天候不順というシンガポールに唯一勝てない天候部分がネックとなり、月間400万トン並の需要と供給ができない。
一方、製油所は設備が新しく、二次装置が整備されているため重質原油を調達し、適合油の生産が可能なところは強みとなる。
日本は石油元売りの再編で製油所数は減少した。石油製品の供給量が少なくなるなか、ジェット燃料、ガソリン、軽油の販売が見込めず、さらなる供給の引き締めが必要となる。日本発着の船舶需要を恒常的にどれだけ取り込めるのかが今後の相場維持につながる。
製品別では、HSFO供給量は頭打ちで、長期契約のみ高価格帯で販売が主流だ。LSMDOは供給量ギリギリでバンカーに卸し、利益が見込めるナフサなどの得率を上げられるよう調整される可能性が高い。また、LSMDOはA重油0.5%S価格にリンクしているが、そもそも販売価格が高価すぎるので調達する船社は少ない。
一方、VLSFOは利益確保のため生産量を調整し、販価は高めに設定している。しかし、国内トレーダーがボンドバンカー需要の後退を理由に安値での販売を行うことで作り手と売り手のアンバランスさが如実に表れるマーケットとなる。2020年下期から続く生産コスト高と販売価格安は当分解消されないだろう。
そのほか、名古屋港で開始したLNGバージとLNG燃料船の運航、アンモニア燃料船の運航など、次世代燃料開発がさらに進む年となりそうだ。2025年にLNG新造船が10~15隻増えるよう2021年にオーダーが入る見込み。そのためLNGバンカーの実需は2025年から増加するとの見通しだ。
極東ロシアは重油のほとんどが内陸製油所から鉄道で運搬されている。1~2週間かかるため、需給環境が変化しやすい。1年を通じて天候の影響を受けやすく、遅延も発生しやすいので邦船社からもスポットやターム契約は減少傾向だ。HSFOはロシア国営企業ロスネフチが供給し、長期契約が中心とならざるを得ない。
近隣の韓国5港に停泊する本船に対し、硫黄分0.1%以下の燃料油使用が義務付けられるため、LSMGO需要が高まり、MGO需要が低迷した。ただし、内航船や漁船を中心にMGOの需要は依然として多く、流通量自体は減っていない。結果としてHSFOとVLSFOの供給量は担保できるものの、輸送トラブルや受渡し時の天候悪化が重なり、販売価格は高値で推移している。
韓国は2020年9月1日から韓国独自の環境規制が開始され、規定地域に停泊および着桟する船舶は硫黄分0.1%以下の燃料油が義務づけている。
元売り動向では、SKが2019年3月に二次装置を稼働し、低硫黄成分の燃料油を潤沢に供給している。現代オイルバンクとS-オイルも二次装置を稼働させているが、輸入玉が入手できなかったため低在庫に陥った。足元の販売価格で輸入コストを上乗せできないマーケットになった結果、両者の輸入量は大幅に減少している。GSカルテックスが唯一HSFOを供給しており、販売価格は高めだ。中国天津や舟山と競合するなか、輸送コストや精製コストを転嫁できず、価格優位性は薄い。
韓国も世界のトレンド同様、2050年までにCO2排出ゼロを宣言し、水素・電力の低炭素技術改革を推進する。LNGバンカーは2022年までに年間約 31万トンへ規模が拡大すると予想されている。