記者の眼記者の眼

第186回 (2023年3月8日)

 実家の目の前にメガソーラーが誕生した。昨年夏のことだ。かつては石炭業で賑わった集落だが、いまや四方に子どもの影はなく、消えゆく時をただ静かに待っている。30年後、無言で空を仰ぎ見る濃紺のソーラーパネルだけが光り輝き、朽ちた廃屋を鬱蒼と覆う雑草からは、時おり野犬が顔をのぞかせ、迷い人に告げる。「ここはマコンド。記憶にない村」。

 

 1982年にノーベル文学賞を受賞したガルシア・マルケスの代表作『百年の孤独』は、南米の村「マコンド」を舞台に繰り広げられる栄枯盛衰の物語。劇的な幕引きで読者を驚かせるが、現実は違う。限界を迎えた集落は緩やかに痩せていく。

 

 産業革命を支えた石炭は、採掘に人手が必要だった。それが石油に代わると、人間は機械を操作する側に回り、太陽光ともなれば、パネルを設置したら、後はAIが保守点検を手伝ってくれる。エネルギーの進化に合わせ、人々の働き方は変わり、住処も別の場所へと移っていく。最古のバイオ燃料に魅せられた、木こりだけを残して。

 

 集落に一つだけあった公園も、数年前に埋め立てられた。カラーのゴムボールをプラスチックバットで打った感触は、まだ覚えている。いま、都の真ん中でその掌を握ってくる小さな手。「Asgard is not a place, it's a people. And its people need your help(『マイティ・ソー バトルロイヤル』)。故郷は場所にあらず人にあり、という大衆映画のメッセージを頼みに、エネルギーを聞いて書く。転がる私に、朝は降る。

 

(志賀)

 

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