第156回 (2022年7月27日)
明治維新の立役者である西郷隆盛は既に5年程前に他界していたが、勝海舟は健在だった1882年11月1日。その日、銀座で電気街灯が光を放ち、日本の一般市民が初めて電灯を目にした。放電現象を利用したアーク灯と呼ばれるその街灯は、強い光で人々を驚かせたという。
日本社会で電気の利用が始まって140年。技術開発や電気の普及に携わってきた先人の努力に改めて感謝する機会としたい。
翻って現在、電気をめぐる懸念が高まっている。6月の政府による電力需給に関する検討会合では、特に2023年1月、2月に広い地域で供給余力が、安定供給のために必要とされる水準を下回るとの試算が示された。
岸田文雄首相は7月14日の会見で、冬に向け原子力発電は最大9基の稼働を進めて電力の全消費量の約1割分を供給し、同時にピーク時の安定供給のために火力発電10基を追加的に確保するとした。
さらに首相は、「この冬のみならず、将来にわたって電力の安定供給が確保できるよう全力で取り組む」という。「将来」の具体的なタイムスパンがどの程度かは明示されていない。
現代は、140年前とは比較にならないくらい世界の経済規模、エネルギー消費量が巨大化し、社会の仕組みも複雑化している。将来的に「安定」を成立させるには安全や脱・低炭素といった要素を取り入れることも必須。直面している現実を単なる苦境でなく奇貨とし、将来世代を視野に置いた議論や施策に弾みが付くことを願うばかりだ。
(戸塚)