記者の眼記者の眼

第100回 (2020年8月19日)

 「7月末をもちまして、閉店させていただきます。50年間、お世話になりました」。筆者の住む東京・根津で、あるお惣菜屋さんがこんな貼り紙を出して閉店した。閉店前に同店を訪ねると、おかみさん曰く、「設備も人間も古くなっちゃってね。今さら新しい機械を入れても、やっていけなくて」。

 
 内閣府は7月30日、2012年12月から始まった景気回復局面が18年10月で途切れ、景気後退に入ったと認定した。1年半近くも前に後退局面に入っていたとは驚きだが、インバウンド需要で持ち応えていたところ、新型コロナの感染拡大が決定打となったのだろう。4~6月期の国内総生産は年率換算で27.8%減の戦後最悪という。


 他にも、神保町で定食屋、麻布十番で居酒屋等、この半年で馴染みの店がどんどん閉店になった。あんなに美味しくて繁盛していたのに?と驚いたが、店主の高齢化に加えて外出自粛と、経済の悪さを肌合いで感じる。


 先日、散歩で冒頭の総菜屋さんの前を通った。閉まったシャッターには、「50年間、ありがとうございました」、「寂しいです」、「ゆっくり休んで、またヤル気になるのを待っています」、「60年目を目指しませんか?」と一杯のメッセージが書き込まれていた。


 確かに、小休止してまた始めるのも一つの考え方だ。失くしたものを数えるより、いまは充電期間と捉えることにしている。料理を研究する時間ができた、犬と散歩できる機会が増えた等、小さいことが喜べるようになった。

  

(工藤)

 

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