記者の眼記者の眼

第99回 (2020年8月5日)

 

 広島カープが苦しんでいる。シーズン3連覇の栄華に陰りが見えるなか、批判の矛先は不調の主力選手を頑なに2番打者から外さない打線の組み方にも向けられている。見かねたファン歴30年のカープ女子が叫んだ。「打順なんかAIに決めさせろ!」

 

 たしかにAI(人工知能)は優秀だ。新型コロナウイルスへの感染防止が取り沙汰される昨今は、画像解析で体温を検知するシステムが注目を集めている。エネルギーの先物市場でも、AIによる自動取引が着実に増えているようだ(大場紀章『コモディティ市場でもAI取引が席巻』)。報道分野にいたっては、天気予報や野球の記事をAIが自動生成し始めている。将来はAIが売買したガソリン価格をAIが集め、文章にする。リム社員はそれを眺めて報告するのだ。「記事、校了しました!」

 

 判断を下す役割が人間に残されているとしても、責任逃れが好きな私たちは、AIへの依存度をますます高めていくだろう。「多くの人は快適さを求めてわずらわしい判断をAIにゆだね、その動きに適応していくはずだ。(中略)AIが人間化するより、人間がAI化する可能性が高いのである」(佐藤卓己『流言のメディア史』)

 

 職業も恋愛対象も趣味もAIに決めてもらったほうが、たしかにストレスを感じずに済むかもしれない。2番打者に固執するカープは、今日も借金を増やした。合理化の極致は感情を除くことにある。AIはカープ女子に告げるだろう。「野球なんか、見なけりゃいいんだ!」。

  

(志賀)

 

このコーナーに対するご意見、ご質問は、記者の眼まで 電話 03-3552-2411 メール info@rim-intelligence.co.jp