記者の眼記者の眼

第98回 (2020年7月22日)

 3月末、以前世話になった上司が他界した。世間知らずの新人の頃、冬場にコートを着たまま早退したいと申し出た際、「無礼な常識知らず」と洗礼を浴びせられた。厳しい上司だったが、優しい一面もあった。飲み会の席で聞いた、「大切な人の冠婚葬祭は仕事より優先しろ」との言葉は、自分の行動の礎となっている。しかし、このコロナ禍でどうやって葬儀に足を運ぶか迷った。世話になった人に対して不義理はしたくないが、場所は福島県の相馬と遠方だ。

 

 自家用車では、道中で"自粛警察"に石を投げられるかもしれない。高速バスもない。東日本大震災後、不通となっていた常磐線が9年ぶりに全線開通し、東京から直通の特急を選んだ。3密を避けるため、奮発してグリーン車に乗った。自粛ムードの中、車内は私と後輩を含め、上野からたったの5人。普通車は半分以上埋まっていたので、この選択は結果として良かった。

 

 いわき駅まではこれまでと大きく変わりない沿線の風景が続いた。津波や帰還困難区域で不通だった富岡駅~浪江駅の風景は一変。時間が止まったままの家や建物が多くあった一方、福島第一原発に近い、大野駅、双葉駅は線路や駅が真新しく、関係者と思しき復興に携わる人の乗り降りがあった。

 

 忘れてならない福島復興の一端を感じることができた。記事の取材でリアルもたまには必要。気兼ねなく移動できる日が待ち遠しい。元上司の冥福を祈りつつ、そんなことを心に思い浮かべた。

 

 

(吉井)

 

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