記者の眼記者の眼

第97回 (2020年7月8日)

 最近、2冊のジャンルの異なる本を読んだ。1冊はビジネス本で、日本がいかに貧乏国に転落したかについて、他方は英国のベストセラーで、KGBのスパイだった主人公が、東西冷戦時代に実は英国のM16の二重スパイを働いていたというノンフィクションだ。両方を単純に比較できないことは十分に承知しているが、読後感として前者には物足りなさを感じ、後者には感動を覚えた。

 

 前者は日本の所得水準が下がり、国際的な地位がいかに低下したかを様々なデータで説明している。バブルを経験している私は、書いてあることを肌身で実感できたものの、なぜ日本が転落したかの要因や今後の展望についての記述があっさりし過ぎており、「ずらずら状況説明だけされてもね。だから何?」という感想を持った。

 

 一方後者は、スパイ小説を上回るような旧ソ連からの脱出劇が非常にスリリングで面白かったこともあるが、なぜKGBの一員である主人公が、家族にすら真実を話せない多くの犠牲を伴う二重スパイになったのかが理解でき、感動した。作者が主人公を含む多くの関係者に取材し、生身の人間の声を綿密に聞き出したことも、遠い国の読者(私のこと)を感動させた一因ではないか。

 

 ここで考えたのは、日々の原油市場の取材についてだ。市場関係者から聞いたことをおざなりの理由をつけてたれ流すだけのレポートに終始していないか。一歩つっこんだ取材で、背景や生の声を届けられるよう努めたいと思った。

 

 

(高木)

 

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